サンフランシスコから南へ車で40分ほど、スタンフォード大学の近くにひっそりと佇む映画館があります。スタンフォードシアター。外観は1920年代のネオクラシカル様式、内部はバロック風の装飾が施されています。
私が初めてスタンフォードシアターを訪れたのは2022年。コロナの影響で長らく休業していましたが、途中で再開され、それ以来何度も足を運ぶお気に入りの場所になっています。赤いカーテン、重厚な天井装飾、壁に並ぶ古い映画ポスター。(日本語のものもあります!)座席に座ると、まるで100年前のカリフォルニアにタイムスリップしたかのような感覚に包まれます。
上映の合間にはワーリッツァー・オルガンの生演奏が響き渡ることもあり、映画の世界に引き込まれます。中には日系人の演奏者もいて驚かされました。
スタンフォードシアターのチケット料金は、大人1人7ドル、65歳以上と18歳以下は5ドルで2本立ても楽しめる良心的な価格。ポップコーンはLサイズでも4ドル、味も今まで食べた中で一番美味しかったくらいのお味。どんなバターを使ってるんだろう?
映画館の歴史と復興
スタンフォードシアターはおよそ100年前の1925年に建設されました。サイレント映画の時代、スタンフォード大学の学生や地元の住民にとって娯楽と文化の中心であり、1,400席近くを誇る壮麗な映画館でした。しかしテレビの普及や、郊外型シネコンの登場により観客は減少。1980年代には閉館の危機に直面しました。
復活の手を差し伸べたのは、HP創業者デヴィッド・パッカードの息子、David Woodley Packard氏の財団です。劇場の建築や装飾を可能な限り当時の姿に復元し、最新の映写技術や耐震構造も導入。「歴史的意匠と現代技術の共存」が実現され、古き良き映画文化と現代テクノロジーが融合した特別な空間になりました。
また、復元の過程でオリジナルの装飾や天井画も丁寧に修復されました。5000枚以上のスケッチや白黒写真をもとに、ギリシャ・アッシリア風の天井画が蘇り、訪れる人々を圧倒。この復元は単なる「保存」ではなく、過去の文化遺産を未来につなぐ「歴史博物館」としての役割を果たしています。

上映プログラムと歴史を体感
スタンフォードシアターの魅力は、上映作品にも。アメリカ映画黄金期の作品を中心に、ヒッチコック特集やケリー・グラント特集、クリスマスには『オズの魔法使い』や『メリー・ポピンズ』なども上映されます。私自身、映画史の授業でサイレント映画を学んだ経験があり、ここで上映されるたびにワクワクします!
また、上映の間に行われるオルガン演奏は特に印象的。サイレント映画時代の1920年代の映画館では当たり前だったこのスタイルは、今ではとても珍しく、映画により一層の臨場感を与えてくれます。オルガニストは通常エンジニアなど別の職業に就く方も多く、趣味として演奏するプロ並みの腕前には驚かされます。(シリコンバレーならではですね)
トリビア
- ワーリッツァー・オルガン:1926年製のコンソールと1928年製のパイプを組み合わせ、復元には2年と6人の専門家が関わった。
- 天井画の復元:5000枚以上のスケッチや写真をもとにオリジナル色を再現。ギリシャ・アッシリア風の壮大な絵画が蘇る。
- 映画保存活動:パッカード財団はUCLAフィルムアーカイブと連携し、劣化フィルムのデジタル化を進め、貴重な作品を後世に残している。
- 子供向け上映も充実:クリスマスには『オズの魔法使い』や『メリーポピンズ』、ハロウィンには『フランケンシュタイン』など、季節ごとの特集も魅力。
- 料金は驚きの良心価格:大人7ドルで2本立て、ポップコーンは4ドル。映画館で味わえる文化を気軽に楽しめる。
- 100周年を迎えた劇場:2025年6月、100周年記念としてオープニング上映作『I’ll Show You the Town』を再上映し、地域と映画文化の歴史を祝った。

現在公開されているプログラム
現在、「クラシック・ウェスタン映画特集」が開催中です。この特集は、映画史家デイヴィッド・トムソン氏によってキュレーションされ、1920年代のサイレント映画から1960年代初頭の名作まで、45本の西部劇が上映されます。
上映スケジュールや詳細は、公式サイトのカレンダーをご確認くださいね。
まとめ
スタンフォードシアターは、単なるミニシアター館ではありません。クラシック映画の世界と現代技術、そして歴史的建築の美学が見事に融合した空間です。座席に腰を下ろせば、100年前の映画館の空気を感じながら、最新の映像・音響で映画を楽しむことができます。
ここで映画を観ることは、単なる娯楽ではなく、文化遺産を体験する旅でもあります。クラシック映画ファンはもちろん、建築や文化史に興味がある人、少し特別な体験を求める人にもぴったりの場所です。
サンフランシスコ市内から車で40分ほどなので、パロアルト観光のついでに立ち寄り、歴史と現在が交差する特別なひとときを味わってみてくださいね。
アクセス
【サンフランシスコ観光】コイトタワー完全ガイド|歴史・内部壁画・ニューディール政策と社会的背景